日本の財政事情と円相場
財政事情と国債相場
日本の財政は危機的状況にあります。平成29年現在の政府債務残高は対GDP比で240%に達しており、断トツの世界1位です(2位はギリシャの182%)。米国は107%、イギリスは89%、ドイツは68%です。にもかかわらず、日本の国債は米国やドイツと並んで安定しており、長期金利も低水準にとどまっています。この点については一般的に次のような説明がされています。
1.個人の金融資産が潤沢
国債はだれが買っているのかというと、国内の銀行や機関投資家です。そしてその資金は国民の預貯金であったり保険料であったりします。元をたどれば個々人の金融資産が国債を買い支えているわけです。両者の残高を比べると、2017年9月時点で、家計部門の純資産は1527兆円、国債残高は1054兆円なので、まだ473兆円ほど余裕があります。政府の債務残高が家計部門の純資産の範囲に収まっている限り、国債は大丈夫だというわけです。
2.企業も余剰資金を抱えている
お金が余っているのは家計部門だけではありません。日本では企業部門(非金融)も余剰資金を抱えているのです。通常、企業は設備投資などに必要な資金を銀行から借りますが、日本の企業はお金持ちで(と言っても大企業の話しですが)、家計部門以上の遊休資金があります。そうした資金も銀行等を経由して国債へ流入しています。一方で、銀行からすると貸し出し先がないので国債を買うしかないという、二重の意味で国債相場を支える要因になっています。
3.経常収支が黒字
経常収支は、例えて言えば日本国全体の家計に相当します。それが黒字である限り、貯蓄は増えていきます。企業が内部留保したり家計に配分されたり形はいろいろですが、いずれにしても国内の資金は増えて、新たに国債を買う余力が生まれるというわけです。もちろん、貿易収支は2011年末以降赤字基調が定着しつつあるので(2016年は6年ぶりに黒字)、経常収支もいずれは赤字に転落する可能性がありますが、まだ大丈夫というわけです。
なぜ余剰資金は国債に向かうのか?
以上の事実は、確かに国債を買うための資金があるということを説明しています。しかし、なぜ国債に向かうのかという点の説明にはなっていません。では、金融機関や機関投資家はなぜ国債を買うのでしょうか。それには次の二つの理由が考えられます。
1.国債が資金運用対象として最も有利
本来金融機関は消費者から集めた預貯金を企業に貸し出して利ぎゃを稼ぎます。しかし現在の日本国内では企業の手元資金が潤沢だったり設備投資に慎重だったりして、資金需要が低迷しています。また外債は、主要国がみな低金利で為替リスクを打ち消すほどの金利差がありません。消去法ではありますが、今のところ国債が最も安全確実に稼げる資金運用先なのです。
ただし逆にいうと、国債よりも有利な条件で貸し出しができるような状況になれば、資金は国債へ向かわなくなります。しかしこれは経済の構造的な問題にかかっているので、多少景気がよくなったくらいではなかなか転換は望めません。
2.日本国債にデフォルトをリスクを見出していない
もう一つの大きな理由は、日本国債はまだ大丈夫だと考えられていることです。日本国債の格付けは中の上もしくは上の下で(2018年1月現在ムーディーズでA1)決して高くありませんし、2017年9月には格下げ懸念も浮上しました。しかし国債相場自体は安泰です。なぜでしょうか。
- 社会保障の国民負担率が低い
年金制度や医療費制度を国際比較すると、社会保障の国民負担率を引き上げる余地がまだあります。 - 消費税率が低い
国際比較からは、日本の消費税率は10%まで引き上げられたとしてもまだ低い部類です。さらに引き上げる余地があるのです。
こうしたことから、いざとなれば日本政府は歳入を増やす余地があると見られています。そのため、財政事情がいかに悪くても、余剰資金は国債へ向かうのです。
国債相場と円相場
日本はまだまだ社会保障の国民負担率や消費税率を上げる余地があると言っても、実行するためには国民の理解が必要です。しかしそれは容易なことではありません。選挙の結果を考えて先延ばしにすればするほど、デフォルトが現実味をおびてきます。結局のところ、政府が財政再建に取り組み、国民もそれを支持するかどうかに、日本国債の将来はかかっているわけです。もしそれが実現不可能と市場が考えるようになれば、一斉に国債は売られることになります。同時に円も信任を失い、大幅な円安は避けられません。円相場の長期的な見通しを財政事情だけで判断することはできませんが、鍵を握る要因の一つであることは間違いありません。(2018年1月記)
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