マネタイゼーションと為替相場

マネタイゼーションとは

   マネタイゼーション(Monetization)の原義は「お金に換える、現金化する」と言った意味ですが、金融経済の用語としては、中央銀行が政府の発行する国債を引き受けることを意味します。つまり、国の財政赤字を中央銀行がお札を刷って穴埋めすることです。これは、一歩まちがうと悪い副作用を起こす危険な政策と考えられています。もし日本政府が国債を乱発し、日銀に全て引き受けさせたらどうなるでしょうか。日銀はそのためにせっせと輪転機を回し、政府は真新しいお金で公共投資などを行います。景気は良くなるかもしれませんが、次のような現象を招く可能性があるのです。

  • 日銀が節操なくお札を刷って赤字を補てんしていると市場がみなせば、国債への信用が落ちて価格は下落。長期金利は上がりますから、かえって景気の悪化を招くかもしれません。
  • 流通するお金の量がどんどん増えるので、インフレの危険性が高まります。もし制御不能になったら円は信任を失って価値が下がります。

マネタイゼーションの功罪

   こうしたことから、先進国では中央銀行の独立性を重視していますし、日本では日銀が国債を直接引き受けることを法律で原則禁止としています。

   一方、マネタイゼーションが増税や歳出削減とセットで実施されるのであれば、良い方向に進む可能性もあります。景気をよくして増税も実現できれば国の収入は大きく増えますし、コストカットをすれば財政をスリムにできます。バラ色のシナリオです。

   しかし、ユーロ危機でも見られたように、増税や歳出削減は必ず国民の反発を招きます(ギリシャやスペインでは暴動が起きました)。そのため、議会制民主主義では有権者が嫌う政策は先延ばしにされがち。選挙が近づくと、口にさえ出せなくなってしまいます。結局のところ、国民生活に痛みを伴う政策を実施することは相当にハードルが高いのです。

マネタイゼーションと為替相場との関係

   マネタイゼーションが経済や財政によい効果をもたらせば、その国の国債や通貨は信任を得て、値上がりするでしょう。しかし上述したようにそれは綱渡りをするようなもの。増税や歳出削減などはどんどん先延ばしされる可能性が高いのです。そしてその先に訪れるものはインフレであり、通貨に対する信任の低下です。これらは為替相場にとって悪材料であり、通貨価値の下落をもたらします。マネタイゼーション的な政策を採用している国があった場合、為替相場はその推移を織り込みながら形成されることとなります。

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