FXの詐欺事件

FX誕生期の混乱

   FXが日本に導入された当初、業者には2種類の形態がありました。ひとつはプリンシパル方式と呼ばれるもので、お客様と業者が相対で取引きを行う方式。現在はほとんどの業者がこの形態です。もうひとつはIB方式と呼ばれ、海外の業者に取次ぎを行うだけの形態です。IBはイントロデューシング・ブローカーの頭文字で、プリンシパル業者のように取引の当事者にはなりません。現在ではほとんど見られなくなった形態ですが、とりあえずFXに参入するには手軽な方法だったので、当時は10社程度が扱っていました。

   そうした環境のなかで起こったのがソブリン(またはモリソン)事件と呼ばれる横領事件です。FXが急成長していることに目をつけたある男が、モリソン・キャピタル・ホールディングス社なるものを米国デラウェア州に登記し(この州は簡単に会社が作れます)、駐在員事務所を日本に置きました。そして、ソブリン・インターナショナル社という香港でFXを行っていた会社の日本代表として、営業を始めたのです。

   その後、8社ほどがソブリン社とIB契約を結んだと言われています。ただ、ソブリン社自身も注文執行などに問題があったようで、多くの業者は事件が起こる前に解約して難を逃れています。そうこうしているうちに、件の男は預かった証拠金を持ち逃げしてしまったのです。不明となった額は6〜7億円程度だった模様。この事件では、IB契約を結んでいた業者も契約金などを失った被害者なのですが、このうちの2社は顧客から返金訴訟を起こされる羽目になっています。

FXブラック業者の手口

   2005年7月に金融先物取引法が改正されるまで、FXはこれといった規制がなく野放し状態でした。一方で、顧客層はどんどん広がっていましたから、ブラック業者がほっておくはずがありません。その多くが海外先物から流れてきたグループだったようですが、金先法の施行前は、残された期間で一儲けとばかりに、相当数のブラック業者が参入していたようです。彼らの手口の基本は、消費者をあの手この手でその気にさせるところから始まります。実際に行われていた悪質な手法をご紹介しましょう。

   まず、何かの名簿を使って業者が消費者に電話をかけます。これはたいていの場合、アルバイトやパートで雇った女性が担当します。学校の後輩だとか言って、親近感を持たせるのもよく使われる手です。相手が話しに応じると、FXについて簡単な紹介を行いますが、しつこく勧誘せず、さらっと引き下がります。ただ、会社名だけはしっかり印象づけて。行儀作法が良いので、消費者は悪い業者じゃなさそうだとの印象を持ちます。

   それから何日かして、誰でも知っている大企業の名をかたり、今度はブラック業者の社員が同じ消費者に電話を入れます。「○○物産ですが、今まで法人相手に行っていた有利な金融商品を小口化して、一般の人にも売り出そうと考えています(もちろんFXのことです)。その事前アンケートなんですが、似たような商品を案内されたことはありますか?」ときます。するとその消費者は、何日か前にかかってきた電話を思い出し、社名を告げると、「××さんならFXの大手ですし信頼のおける会社です。きっと儲けさせてくれますよ。」と褒めたたえます。アンケートは適当に切り上げて、話しを終えます。そしてさらに後日、例の女性が再度電話をしてきます。世間話しを交したあと、頃合いを見計らって上司(つまりブラック業者の社員)にバトンタッチ。クロージングの作業へと入っていくわけです。

   他にも一人暮らしをする高齢者の孤独感に付け込んだり、セミナー形式の密室商法をやったり、いろいろな手を使って契約へ持っていきます。そして、証拠金を集めるだけ集めるわけですが、ここで常套手段となるのが出金拒否。顧客がお金を返して欲しいと連絡しても、なんだかんだ理由をつけて出金しないわけです。このあたりの話術はブラック業者の真骨頂とでも言えましょうか。そして、証拠金を吸い上げるだけ吸い上げて、計画的に倒産というのが、彼らの典型的な手口なんですね。

難しいFXブラック業者の摘発

   倒産してしまうと、顧客は一般債権者となるわけですが、回収できる見込みはありません。また、お金の問題とは別に罪に問えないのかと言うと、これも難しいようです。倒産自体は罪になりませんから、詐欺罪を立件する必要があります。しかし、そこは海千山千の連中ですからしっぽは出しません。筆者の知り合いの会社に、こうした事件を担当している刑事さんがやってきたことがあります。警視庁刑事部所属の若い警部補で、FXの仕組みや業界動向などについてヒヤリングするためだったらしいですが、「立件するのは非常に難しいんですよ。」と嘆いていたそうです。金融先物取引法が施行された平成17年7月からその年の暮までに、金融庁から債務超過を理由に業務停止命令を受けた業者は50社もあります。

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