有事の金

   経済記事などで時おり見かける「有事の金」という言葉。資産を守るための金言として昔からの決まり文句です。現に実践している方も少なくないことでしょう。しかし本当のところはどうなのでしょうか。高まる中国や北朝鮮の脅威、膨張する日本の財政赤字、疲弊する先進国経済等々に対して実際に有効なのか。そんな疑問も湧いてきます。ここでは有事の金について検証し、現代における資産防衛について整理していきます。

有事の金とは

   こういうキャッチフレーズめいた言いまわしは日本独自のもので、英語に同じようなフレーズはありません。有事というのは緊急事態の発生を指しますから、英訳すればGold for an emergencyとでもなりそうですが、定番の言い回しというわけではありません、日本ではマスコミが使いやすい語呂の良い言葉として定着したのではないかと思います。

   それはともかく、金が安全資産であるとの認識が市民権を得たのは、1960〜70年代の米ソ冷戦時代のことです。1962年にはリアルに核戦争一歩手前まで両国間の緊張が高まりました。このとき、紙幣のように紙屑になったり焼失したりする心配がなく、持ち運ぶこともできることから、金が「最後の手段(Last Resort)」として注目されたのです。

金は色あせたか

   しかしその後は核戦争の懸念が後退する一方、貨幣システムへの信認が高まり、有事の金は色あせていきました。世界的規模の戦争でもない限りは、つまり経済的なショックや地域紛争程度の有事であれば、安全通貨と言われるドル、円、スイスフランが避難先としての機能を果たせたわけです。

   しかし、貨幣の価値はそれが決裁手段として通用するうちは維持されますが、いったん信任を失ってしまえばただの紙です。問題はそれほどまでに大規模な混乱が生じるかどうかです。中国の海洋進出や北朝鮮の核ミサイルは確かに脅威ですが、地球規模の混乱が生じる可能性は今のところ低いでしょう。米ソ核戦争とはわけが違います。

金の買い方−タイミング

   むしろ注意したいことは、そうしたニュースが出ると金相場が意図的にあおられることです。材料が出て相場が上がったのを見た一般投資家が買いつくのを待っている子鬼達がいるということです。また、金も他の鉱物資源や農産物と同様に、需給関係で相場が形成されるという一面を持っています。そのため、需給面の材料で割高に買われることもあります。

   こうした間の悪いタイミングで金を買うと、せっかくの資産分割も含み損を抱えてしまうことになります。短期的な値上がり益が目的ではないにしても、買うなら金市場が人気を失い相場が下がっている時がチャンスです。昔から推奨されているドルコスト平均法も有効な手段でしょう。決して相場が高騰している時に手をだしてはいけません。

金の買い方−金融商品

   有事の金として金を購入するなら、現物として手元に置く必要がありますから、専門店で現物の純金バーを購入することになります。一方、資産分割が目的であれば、純金積立も選択肢になりますし、その他にも次のような方法があります。

1.金貨

   金を手元に置けるという点では、純金バーに加えて金貨という選択肢もあります。しかし金貨は額面に見合うだけの金を含有していません。そこには主にコレクター向けの付加価値が含まれているからです。金価格が暴落しても額面価値は変わりませんが、それも政府が安定し通貨制度が維持されていることが前提です。資産分散という視点だけで考えれば、純金バーのほうが優れているでしょう。

   しかし金貨、特にアンティークコインには面白い一面もあります。金としての価値に希少性や投機性などの要素も加わって相場が形成され、時に思わぬ高値がつくのです。実際、リーマンショック以降はアンティークコインの人気が高まっており、マネーゲームの様相も帯びているようです。その理由の一つとして、当局に補足されにくいという側面があります。日本でも、純金バーは支払い調書が国税に提出されますが、アンティークコインは業者にその義務がありません。例えば何年か前に購入したアンティークコインが値上がりしたので売却し利益があったとします。しかし売却先の業者は税務署に報告したりしませんから、自分で責任をもって確定申告する必要があります。

2.金証拠金取引

   FXと同じ仕組みで金取引を提供している業者もあります。しかも円建てやドル建てなど複数の相場が用意されています。証拠金取引なので現物を手元に置くことはできませんが、先物と違って限月制度がありません。業者が存続する限りはポジションを保有し続けることが可能です。また、スワップポイントという金利に似た収益も発生します。よく金は金利を生まないと言いますが、金証拠金取引を利用すれば、金投資でインカムゲインを得ることが可能になります。しかもレバレッジを効かせられるので、高い資金効率を指向することもできます。ただ、資産分散の域を逸脱しかねませんから、はっきりした目的意識を持つことが大切でしょう。

3.金先物取引

   国内外の商品先物取引所で売買することができます。先物取引なので差金決済が基本ですが、一定量以上であれば東京商品取引所金で現物を購入することが可能です。

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