大規模災害と為替相場

地震・台風・洪水などの転変地異や原発事故など、その国の経済活動に多大な影響を及ぼす大規模災害が発生した時、為替相場はどのような動きを見せるのでしょうか。過去の事例を参考に相関関係を検証してみます。

日本で起こった大規模災害として想起されるのは、2011年3月に発生した東日本巨大地震と、それに伴う原発事故でしょう。こうした事態が発生した場合、単純にに考えれば、資金が海外へ逃避して円安になるような気がします。確かに発展途上国ではそうかもしれませんが、日本は世界一の対外債権国ということもあって、最初の反応は円高でした。

地震発生前は82円70銭前後だったドル円は、その5日後には一気に76円台に上昇したのです。この間、福島原発の1号機と3号機が爆発し、日経平均は急落していたにもかかわらず、です。ただ、その後の展開は下のチャート(日足)が示すように、円高から一転して円安に急旋回し、再び円高トレンドという流れになりました。以下では、最初の反応として円が買われた理由を検証します。

大規模災害と為替相場

なぜ円高に反応したのか?

何らかのショックが発生した際に留意すべきことは、最も機敏に行動するのは短期売買系の投機筋だということです。彼らの取引スタイルは市場心理や材料をベースにした目先の売買です。中長期的なファンダメンタルズを分析評価したうえでの取引が市場の主体となるのは、乱高下が落ちついてからです。では地震が発生した直後、短期筋はどのような思考で行動したのでしょうか。

1.日本の投資家が海外投資に慎重になってドル買いの需要が減り、需給バランスが崩れる。

日本は経常黒字国ですから、輸出で得た売上げ代金や海外で発生した利子や配当などが、日常的にドルから円に換えられています。一方で、国内の投資家は海外に投資するために円をドルに換えていて、ドルの売り買いはある程度釣り合っています。しかし、国内投資家が未曽有の災害で海外への投資に慎重になると、そのバランスが崩れて円高が進みやすくなります(参考記事:為替相場と国際収支)。

2.日本の損害保険会社が保険金支払いに備えて円買いを進める。

損保の円買い需要も材料視されました。実際には、国内損保業界の支払予想額は6千億円強と見込まれる一方、大手3社の手元資金は1兆円近くあったため、海外の資産を売って国内に資金を戻す必要性は低かったのです。ただ、被害がどこまで拡大するか分からないという不安心理は、投機筋にとって利用価値が高かったわけです。

3.日本企業が海外に蓄えていたドルを円に戻す。

実際にこうした円転の動きはあったようです。国内生産の回復に必要な資金を確保するためです。ただ、資金需要がどの程度発生するか当初は不透明ですから、これも思惑先行だったと言えます。

そして円安へ。

上記のような理由で、最初の市場の反応は円高でした。しかし、5日後には急激な円安へ転換しています。思惑が交差する中、ポジション次第の投機的な売買が旺盛だった様子がうかがわれます。日本企業がドル円の売買注文を手控えたことも、投機筋にとっては相場を動かしやすいという面があったことでしょう。なお、上のチャートには含まれていませんが、その後の円は、2015年6月につけた125円台まで、長く下落基調をたどることになります。

◎先頭のページ:ミセス・ワタナベ|前のページ:自動ロスカットで賠償命令

Copyright(c) 2008-2021 All Rights Reserved.