FXと行動経済学
行動経済学とは
行動経済学(Behavioral Economics)というのはあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、近年注目されている経済学の新しい分野です。誤解を恐れずにいうと「経済は感情で動く」という考え方に立っています。古典的な経済学では、人間は利益が最大となるように合理的に行動すると仮定しています。ところが、現実はそうとも言い切れない。特に金融市場の動向は不合理に満ちており、それが実体経済にも影響を及ぼすので、主流派経済学だけでは説明ができません。そこで、人間の心理に注目して経済の事象を解明しようというのが行動経済学です。
プロスペクト理論
行動経済学の柱の一つにプロスペクト理論(Prospect Theory)というのがあります。実はこれ、FXにも大いに関係があるのです。FXで必勝を期すために、ぜひ心に留めておきたい定理を含んでいるから。それは以下の三つです。
- 人は、目の前に利益があると利益が手に入らないリスクの回避を優先し、損失を目の前にすると損失そのものを回避しようとする。
- 人は、財産の絶対額よりも、財産がどれだけ増えたか・減ったかのほうにより大きな喜び・悲しみを感じる。
- 利益を得た時の満足感や損失を被った時のくやしさは、利益や損失の額とは単純に比例しない(直線的に変化しない)。
1番目については次のページで解説していますので、そちらをご参照ください。2番目については常識感覚で分かると思います。FXで10万円運用している人と100万円運用している人がいて、どちらも1万円儲かったとしたら、前者のほうが喜びは大きいに決まっています。
3番目については少し補足が必要でしょう。例えば10万円でFXをしている人が、1万円儲かった場合と2万円儲かった場合を考えてみます。どちらも嬉しいに違いありませんが、後者は前者の2倍嬉しいかというと、そうでもないわけです。さらに5万円儲かったからといって、5倍嬉しいわけではないのです。損失の場合も同様で、2万円損したからといって、1万円の損の2倍くやしいわけではありません。人間は刺激に対して鈍感になるので、反応がにぶっていくのです。
でも、この定理のおもしろいところはこれだけではありません。それは、1万円儲かった時と1万円損した時では、嬉しさとくやしさは同等ではないということです。くやしさのほうが遥かに大きいのです(人によっては悲しみであったり後悔であったりしますが)。金額が大きくなっても傾向としては同じで、全体的に利益の嬉しさよりも損失のくやしさのほうがインパクトが強いわけです。
行動経済学のFXへの応用
理論というと何やら難し印象ですが、FXの経験者であればこれらの点には共感できると思います。でも共感しているだけでは進歩がありません。大事なことは、FXにどう生かしていくかということ。それを次にお話しします。
1.取引規模の維持
まず2番目の定理から得られる教訓は、FXのようなリスクの高い取引では、儲かっても取引金額を膨らませてはけないということ。仮に10万円で取引を始めた人が幸運にも大儲けして、運用資金が倍の20万円になったとします。すると、1万円儲けても以前ほどには嬉しくない。だから、ポジションを膨らませて、もっと儲けようとする。しかしリスクもそれだけ大きくなっているわけですから、損をした場合の額も大きくなります。
筆者は、儲けるにつれて建玉を大きくしたため、一夜にして儲けを吹き飛ばした事例を数多く見てきました。これを防ぐためには、最初に1万儲かった時の喜びを忘れないことです。具体的には利益が出ても一定期間は運用資金に繰り入れないようにすべきです。例えば半年とか1年は、当初の運用資金を維持し、利益が出ても外枠でとっておく。そして最初に決めた最大建玉を越えないようにする。一定期間たって利益がでていたら、運用資金に算入するかどうか改めて検討する、といった具合です。
2.ルールの遵守
次に3番目が教えてくれることについて。損の悲しみのほうが利益の喜びよりも大きいので、損を確定することは心理的に大きな負担となります。そのため、人は損失をできるだけ回避したいという心理が働きます。これが、損失をずるずると拡大させてしまう原因なのです。また、損失が拡大してくると、だんだん鈍感になってきます。最初は1万円の損でもかなりショックだったのに、4万円の損が5万円になってもさほどショックではなくなります。こうして損失は膨らみ、抜きさしならないところまで追い詰められて、最後は全てを失ってしまうわけです。
こうした最悪の結果(しかし相場では日常的な光景)を避けるためには、まず上述した心理が働いているということを自覚することです。そして、できるだけ機械的に損切りや利食いができるように、あらかじめルールを決めておくことです。リスクや不確実性に満ちている為替相場では、自分の心をいかにコントロールするかが重要な鍵を握ります。行動経済学やプロスペクト理論というと何やら大げさですが、これらが示唆していることは経験的な実感を伴うものです。常に頭にいれておき、その場面になったら思い出すようにしたいものです。
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