意地商いと値ごろ商い
せっかく入口ルールと出口ルールを決めても、実際に取引を行うと破ってしまうことが起こります。それは、相場のあちこちに投資家が陥りやすい心理的な罠が待ち構えているからです。ここではその代表的なケースを二つご紹介します。どちらも必勝のFXには大敵です。
意地商い
『意地商い』というのは、自分の建玉や作戦にこだわってしまい、意地になってそれを続けようとすることをいいます。冷静さが失われ、判断が主観的になってしまっている状態です。そうなると、為替相場を都合のよいように考えたり、希望的に見たりするようになります。市況解説などもポジティブな情報は取り入れ、ネガティブな情報は忘れようとします。これを行動経済学では確証バイアスと言いますが、必勝法を台なしにする一番の原因です。
誰しも建玉するときは当たると思ってそうするわけですが、実際には外れることも多々あります。トレンドに逆らっていると判断したら、傷の浅いうちに損切りすることが肝要です。そのために必勝ルールを作ったわけですから。しかし、タイミングを逃してしまった場合、ベテランでも微妙に心理が変化します。うまく損切れなかったことに対する”悔しさ”が、判断を誤らせるのです。
そうなると、いまさら損切りするのも気分が悪いし、ダメージも大きいので、戻りに対する期待感が出てきます。初心者の場合は、もともと損切りに対する抵抗感がありますので、『意地商い』に陥りやすい。しかし、損切りの大切さを知っていて、普段はできているベテランでも、魔が差すというのか、注意力を欠くというのか、時に『意地商い』の罠にはまってしまうことがあるのです。
自分の建玉はかわいいものです。できれば利食って手仕舞いしたい。しかし意地になってはいけません。ではそうすれば避けられるのか。ひとつの方法として、建玉を持っていたとしても、持っていなければどう行動するかを考えることです。つまり、次に出す注文を決済注文ではなく、つねに新規注文だと考えるわけです。これは、相場を別の角度から見ることで、大袈裟に言うと『我に帰る』効果があります。意地になっているかもしれない自分に気づいたら、試してみてください。
値ごろ商い
「値ごろ商い」は「値惚れ商い」とも言いますが、根拠の薄い値ごろ感で買い時・売り時を判断してしまうことです。次のような状況を想定してみてください。為替相場は上昇中です。あなたも押し目がきたら買おうと考えていました。しかし、躊躇しているうちに絶好の機会を逃し、買いそびれてしまいました。ここでも”悔しい”という気持ちが出てきます。一方で「今さら買うのは怖い」という心理があります。
こういうときは、潔く忘れるのが一番なのですが、ふと「ここまで下がることはないだろうが、下がったら買いだな」という考えが浮かびます。一応買い注文を入れることで悔しさが緩和されるので、このアイデアはなかなか魅惑的です。買えたらラッキー!という甘い期待も心地よいものです。
しかしこれが罠なのです。考えてみてください。この作戦には上昇相場が続くという前提に立っています。「ここまで下がることはないだろう」という水準まで下がったとしたら、その時はもう下げ相場に転換しているかもしれないという、重要な視点が欠落しています。実際、たいがいそういう時は、予想していなかった弱材料が出現したからそうなったのであり、すでに市場参加者の心理は変わっています。
上記は一つの例ですが、こうした場合以外にも、投資家には値ごろ感が働きます。先月まで110円していたドルが105円まで下がってきた。ここまで下がるとは予想していなかったので『安い!』という心理が働きます。しかし値ごろで商いすると、大勢に逆らっていることがよくあるのです。相場の格言に『もうはまだなり、まだはもうなり』というものがありますが、値ごろ商いを戒めたものと言えます。なんとなく安い・高いというか感覚はまったくあてになりません。これも必勝のFXには大敵です。
もし、結果的にそこが買い場だったとしても、気にしないことです。チャンスは波のように際限なく向こうからやってきてくれます。一度や二度逃してもまったく問題ありません。過ぎ去った波ではなく次に来る波に目を向けましょう。必勝を期すなら値ごろ商いをやってはいけません。
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