4)自動ロスカットの仕組み

自動ロスカットとは

   FXでは、自動ロスカット(自動ストップロスとも言います。)という仕組みがあります。これは、取引で発生した損失(ロス)が一定の水準に達した場合、自動的・強制的に建玉を決済するというルールです。証券や商品の先物取引では見られない、FXの大きな特徴です。もともと、FXが日本に登場する前から欧米では導入されていたので、日本でも自然に広がりました。そして2009年からは法令で採用が義務付けられたのです。

自動ロスカット

自動ロスカットと追証

   自動ロスカット制度が導入されていない証券や商品の先物取引には、代わりに追証(おいしょう)という制度があります。損をしていても、資金を追加すれば建玉は維持できるというものです。この背景には、取引が夕方には終了し、翌営業日の朝まで取引所が閉まってしまうという事情があります。これは欧米の市場でも同様です。一方FXの場合は24時間取引ですから、追証の入金を待っていては、損失がどんどん膨らんでしまう可能性があります。そのため、自動ロスカットという仕組みが導入されたわけです。

自動ロスカットの長所・短所

   この自動ロスカットは、業者側のリスくを軽減することがそもそもの目的でした。ですが顧客側にとっても良いルールです。追証制度はなまじ建玉が維持できるために、ずるずると曲玉(まがりぎょく)を抱いてしまうことが往々にしてあります。これが長引くと精神的につらい状態となります。

   FXも、先回りして資金を追加しておけば、自動ロスカットは回避できますが、想定以上の変動があった場合には有無を言わさず決済が行われます。精神的に追い込まれていくことは避けられます。

   一方、自動ロスカットにも短所はあります。相場が急変してロスカットに掛かり、そのあとで相場が戻ってしまうというケースです。これはもう、仕方がないことと諦めるほかはありません。

維持証拠金と建玉証拠金

   自動ロスカットについては、建玉証拠金と維持証拠金という概念を理解しておく必要があります。これは、実際に取引を行う際、リスク・コントロールと関係するとても重要なことです。最初に建玉する際に最低限必要な証拠金を建玉証拠金と言います。狭義の意味での証拠金は建玉証拠金をさします。維持証拠金は、自動ロスカットが作動しないで、建玉を維持するために最低限必要な証拠金のことです。名前を覚える必要はないのですが、建玉に際して必要な証拠金と、その後に建玉を維持する証拠金は別だということは憶えましょう。

自動ロスカットの限界

   自動ロスカットはポジションの評価損が一定水準に達した時に執行されますが、損失がその水準で確定することが保証されているわけではありません。それは次の理由によります。自動ロスカットが執行に移ると、業者はポジションを決済するために反対売買を行います。これは成行注文として市場に出されますが、即座に約定するとは限りません。通常の市場状態であれば、よほどマイナーな通貨でない限りはすぐに約定するでしょう。しかし、相場が暴騰・暴落している時は、約定するまでに相場水準が変動することがあります。

   注文が成立しないまま価格だけがどんどん上がる・下がるということも起こりえるのです。すると、ようやく注文が成立した時には損失が膨らんでいて、差し入れている証拠金でカバーできないということになります。いわゆる「足が出る」という状態です。業者から見ると、この不足金は顧客立替金(未収金)となるので、回収しなくてはなりませんし、顧客から見れば債務なので支払う義務があります。

過去に起こった未収金の大量発生

   下図は、過去にあった為替相場の急変時に、どれくらいの顧客立替金が発生したかを示しています(金融先物取引業協会まとめ)。第1位はスイスフランショックで、業界全体で34億円近い顧客立替金が発生しています。第3位はアップルが業績予報を下方修正したことで、株が急落しドル円が急落したものです。日本が正月三が日の休日だったことも動きを大きくしました。

順位 イベント 発生時期 金額
スイスフランショック 2015年1月 33億88百万円
東日本大震災 2011年3月 17億24百万円
アップルショック 2019年1月 9億43百万円
チャイナショック 2015年8月 9億19百万円
トルコショック 2018年8月 4億45百万円

ゼロカットとは

   海外では、顧客立替金が発生しても、顧客に請求しない会社があります。こうしたサービスは「ゼロカット」と呼ばれているようですが、日本の業者で採用しているところはありません。損失補てんという違法行為に該当する可能性がありますし、なにより業者がリスクを負うことになります。ゼロカットをうたっている海外の業者は日本の法令が及びませんから、トラブルがあっても法律は守ってくれません。こうしたサービスを信用するよりも、自分でしっかりリスクをコントロールすることが大切です。

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