ディナポリの売買手法
ジョー・ディナポリ(Joe DiNapoli)は著名な投資家の一人で、今もタイにオフィスを構えて活動しています。実際に自己資金の運用を行っているほか、世界各地で公演をしたりノウハウ本を出版したりしていて、信奉者も多いようです。ディナポリの売買手法の特徴は、複数のテクニカル分析を応用して明確なエントリールールとエグジットルールいることです。以下からディナポリの売買手法を解説していきます。
ディナポリ手法における基本用語
ディナポリの売買手法を理解するためには、まず次の四つの用語を知っておく必要があります。
1.DMA
DMA(Displaced Moving Average)は移動平均の一種で、通常の移動平均を左右にずらして描いたものです。ディナポリは右のずらしたものを用います。詳しい説明はテクニカル分析入門のDMAをご覧ください。なお、以下からは右に3日ずらしたものをDMA+3と表現することにします
2.スラスト
スラスト(Thrust)の原義は「突き進むこと。推進力」といった意味です。あまり聞きなれない言葉ですが、ディナポリが自身の売買手法を解説する際に好んで使う言葉です。相場で勢いの強い上昇や下落が起こるとスラストが発生したと表現します。彼はスラストの発生を相場にエントリーする重要なサインとみなしています。
もちろんディナポリの売買手法ではスラスト発生かどうかの判断に一定の基準があります。具体的には上で説明したDMAを利用します。例えば上昇相場の場合であれば、ローソク足などの価格チャートがDMAを上抜け、そのまま8本以上DMAに触れることなく推移すればスラストが形成されたと判断します。
3.フィボナッチ比率
フィボナッチ比率はテクニカル分析でよく用いられる38.2%や61.2%などの数字です。詳しい説明はテクニカル分析入門のフィボナッチ比率をご覧ください。また、波動をフィボナッチ比率で分割して調整や戻りのターゲットを分析する手法を「フィボナッチ・リトレースメント」と言います。
4.ちゃぶつき
もともと「ちゃぶつき」は株式相場や商品相場の用語で、買っては下がり売っては上がるという悪循環から損を繰り返している様を言います。またそうした状況になってしまうことを「ちゃぶつく」と表現します。最近ではあまり耳にしませんが、ディナポリの売買手法ではキーワードの一つになっています。この場合はトレンドの途中や転換点で発生するトレンドレスな状態をさします。具体的にはローソク足がDMAに触れたりクロスしたりして、スラストの形成が途切れる状況をさします。ですから、一般的な相場用語の「ちゃぶつき」とは少し意味合いがことなります。
シングルペネトレーション
ペネトレーション(Penetration)の原義は「境界を超える、突き抜ける」と言った意味ですが、ディナポリの売買手法では終値がDMAを上抜いたり下抜いたりすることをさします。シングルペネトレーションはそうした状況が起こった際に採用する売買手法です。ルールはいたってシンプル。ここでは上昇相場を想定して解説しますが、下降相場でも同様です。また、DMAは3〜5日の移動平均線を使用します。
- 上昇スラストの発生を確認。
- その後、終値がDMA+3を割ったら、そのスラストを含む上昇トレンド全体(途中にちゃぶつきが含まれていてもOK)に対してフィボナッチ・リトレースメントを行う。
- 38.2%戻しや50%戻しのレベルに買いの指値を入れる。
- 買いが成立したら利食いの指値を入れる。目途は戻し幅に対して再びフィボナッチ・リトレースメントを行い、その61.8%戻しのレベルに入れる。つまり、全値戻しは狙わないというスタンス。一方、損切の逆指値を2で行ったフィボナッチ・リトレースメントの61.8%レベルに入れる。
このようにシングルペネトレーションはスラストが発生した後の押し目買い/戻り売りを狙う売買手法です。終値がDMA+3を割れば取り合えず指値を入れますが、トレンドが続いて注文が成立しないことも多々ありえます。また、4では利食いのレベルを61.8%戻しに置いています。つまりひとまず天井を打った可能性も考慮しているわけです。しかし相場の勢いや日柄(若さ)などを総合的に考えて、全値戻しや新高値が狙えるケースもあり得ます。ただその場合でも、建玉の半分は61.8%で利食うなど、分散して利食っていくことをお勧めします。
ダブルレポ
シングルペネトレーションは順張りの売買手法でしたが、ダブルレポ(Double Re-penetration)は逆張りです。すなわちトレンドの反転を狙っていきます。具体的なルールは以下のとおりですが、上昇から下降に転じる場面を例にして解説します。逆の場合も同様に考えてください。
- まずは8〜10本(できれば15本以上)のスラスト発生が前提になります。つまり力強い上昇相場が確認できたら、反転下降を狙う準備をします。
- 終値がDMA+3を下回ったあとで再び上回り、さらに短期間でもう一度下回ったら仕掛け時です(ダブルレポの発生)。ただし2度目のペネトレーションが5本以下の間隔で起こっていることが望ましく、10本以上なら完全に見送ります。条件が満たされていればショートでエントリーします(売りの建玉を作ります)。
- トレンドの反転を狙うわけですから、当たれば大きな利益を手にすることができます。しかしだましとなる危険性もあります。そこで、損切りの逆指値も必ずいれておきます。具体的にはここでもフィボナッチ・リトレースメントを使い、ピークから直近のボトムまでの61.8%戻しに設定します。
もちろん、損切にかかった直後に再び下降相場へ戻るという展開もありえます。しかし逆にそこからさらに大きな上昇へと発展する可能性もあります。相場は確率の問題です。10回取引して6〜7回勝てる売買手法なら、継続すれば資産が増えていきます。ただし、損切ルールを確実に執行することが前提条件となるのです。
ここまで述べたディナポリの売買手法は決して独創的なものではありません。使用しているテクニカル分析もよく知られたものです。大事なことは、売買ルールを明確にしてそれを忠実に実行することなのです。また資金管理についてもルールを決めることが必要です。このあたりのことは「FXの必勝法」で詳しく解説していますので参考にしてください。
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