懸念が広がるレバレッジドローン

相次いだ懸念表明

   2018年9月開催のFOMC。予想通り0.25%の利上げが決定され、後日発表された議事録でも、利上げに関する議論が中心だったようです。その一方で、ある一文が一部関係者の注目を集めました。「レバレッジドローン業界が金融安定にリスクをもたらす可能性を注視する」と明記されたのです。

   翌10月、イングランド銀行(英中銀)のカーニー総裁はに講演会の席上、「レバレッジドローンの成長ぶりは金融危機前のサブプライムローンを想起させる」と発言しています。また同じ時期、FRB(米連邦準備制度理事会)の前議長であったイエレン氏も、レバレッジドローンやコベナンツ(財務制限条項)の緩みに懸念を表明しています。コベナンツとは融資契約に盛り込む条項で、対象企業の資本比率や流動性維持などに一定の制約を定めるものです。それがどんどん甘くなってきているというわけです。世界の金融当局が相次いで懸念を示したレバレッジドローンとはどんなものなのでしょうか。

レバレッジドローンとは

   レバレッジドローンは、信用度の低い企業に対して複数の銀行が共同で行う融資のことです。通常の銀行融資(バンクローン)は、一つの銀行が一つの企業に対して行います。これに対して、複数の銀行が同一条件で一つの企業に実施する融資を協調融資(シンジケートローン)といいます。レバレッジドローンはこの協調融資の一種ですが、融資先の信用度が低く(格付けBB以下)、従って金利も高めに設定されたものを特にレバレッジドローンと言います。

拡大するレバレッジドローン市場

   米国ではレバレッジドローンの貸付債権が証券化され、金融機関や機関投資家(ヘッジファンドなど)により活発に取引されています。企業向け融資を裏付け資産とした証券化商品の利回りは、通常のものは2%程度ですが、レバレッジドローンは4%以上。中身を見ると、コベナンツが緩いものが8割を占めると言われます。つまり、審査が甘い融資が大半を占めるため、利回りも良くなるというわけです。

   ただし、信用度が低い企業向けの融資ではあるものの、有担保ローンなので一定の安全性が確保されています。そのためジャンクボンドに比べると利回りは低くなりますが、投資適格債よりは高金利なので人気が出ました。

   レバレッジドローン市場はこのところ急激に取引量が増えており(6年で倍増)、2018年11月にはついにジャンク債市場の規模を追い越しました。世界的な低金利でお金がだぶついている状況を背景にお金が流れ込んでいます。これが次の信用危機の火種になるのではないか、と危惧する市場関係者が増えているのです。

為替市場への影響

   もし景気が鈍化して、信用度の低い企業の業績に陰りが出てくると、何が起こるでしょうか。融資返済が滞るようになり、やがてデフォルト(債務不履行)が起こります。それが拡大していくと金融不安に、さらには信用危機へとつながっていくかもしれません。まさにサブプライム問題と同じ構造です。サブプライムローンは個人、レバレッジドローンは中小企業という違いはあるものの、金余りを背景に過剰な貸し付けが行われ、それが景気の減速とともに表面化するというわけです。

   リーマンショックの時は、安全通貨として円、スイスフラン、ドルが買われ、それ以外の通貨が売られるという構図でした。あそこまで激しい信用収縮は起こらないまでも、米国景気が悪化すれば、レバレッジドローン市場を震源地とする信用収縮が起こる可能性は低くありません。そうした兆候が現れ始めたら、新興国通貨など信頼性に劣る通貨は保有しないことが賢明でしょう。

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