為替相場とインフレ(デフレ)

   インフレ(Inflation)は物価が上昇することで、一般的にはCPI(消費者物価指数)PCE(個人消費支出)などで計ります。インフレは政府や中央銀行にとって最も重要な政策課題の一つであると同時に、長期的な為替相場にも大きな影響を及ぼします。

   インフレは別の側面から見ると、通貨の価値が下がることでもあります。例えば1年間で物価指数が3%上昇した場合、モノやサービスの価値が上がったという見方と、モノやサービスの価値は変わらず、通貨の価値(すなわち購買力)が3%下がったという見方もできるわけです。ですので、インフレは通貨にとって弱材料となります。特に、モノやサービスが不足してインフレとなっている場合よりも、通貨の供給量(マネタリーベース)が増加してインフレになっている場合は、為替相場に下げ圧力が加わります。

デフレ通貨は買い

   逆にいうと「デフレ通貨は買い」と考えることもできます。実際、バブル崩壊後から2012年頃までの円は、そういう状況であったわけです。この時代、日本経済は低成長(時にはマイナス)で金利も低水準でした。この面からは円高傾向だったことはしっくりしません。しかし、購買力平価説の視点で考えると、理解できる事象だったと言えます。また、ユーロ危機後のユーロ相場についても、ユーロの円化といってよい事象が見られます。日米に比べて経済のファンダメンタルズは劣っていたユーロ圏ですが、意外にユーロは底割れしませんでした。このとき、消費者物価指数をベースにしたユーロ/ドルの購買力平価(1999年1月基準)は1ユーロ=1.2ドル。この水準がユーロを下支えしたのです。

ユーロドル週足

実質金利が重要

   こうしたことから、金利水準については名目金利よりも期待インフレ率を考慮した実質金利に目を向ける必要があります。例えば、仮に日米の金利差がゼロだったとしましょう。しかし米国のインフレ率が2%、日本がデフレで−1%だとすると、実質金利の差は3%もあり、円高要因になりえるわけです。

   FXでは、スイングトレードのような短期的な売買を行うのであればインフレ(デフレ)を考慮する必要はありません。しかし、長期投資でバイ&ホールドを行うのであれば、無視することのできない要素と言えます。なお、CIA(米中央情報局)のサイトへ行くと、THE WORLD FACTBOOKの中にあるINFLATION RATEで、各国のインフレ率を見ることができます。

ドル円相場の長期シナリオ

   それでは上記のような考え方をベースとして、ドル円相場の長期シナリオを考えてみましょう(2014年5月時点)。ポイントとなるインフレ格差は、今後も引き続き米国が日本を上回ると見るのが自然です。もちろん、日本もデフレからの脱却を目指しており、失われた20年のようにデフレが覆いかぶさることはないかもしれません。しかし人口動態や貿易収支などを考慮すると、日本が米国を上回る物価上昇を示す可能性は低いでしょう。そうなると、今後も円高圧力は消えないということになります。

   ただし、より短い期間で見るとインフレ格差よりも為替相場に影響を及ぼす要因があります。それは表面金利の動向です。現時点では、金融緩和からの脱却は米国が先行しており、この状況は概ね2017年から18年頃まで続くと考えられています。そのため、この期間はドル高円安傾向となる可能性が高そうです。しかし18年以降は米国の利上げが一服する一方、日本では金利が上昇し、日米金利差は縮小に向かうと予測されます。このため、ドル円相場は長期的な決定要因であるインフレ格差の影響を受けるようになり、再び円高ドル安基調に戻ると考えられます。

   最後に、その他の要因についても考えてみましょう。まず気になるのは最近の日本の貿易赤字です。以前の日本は貿易黒字大国で、自動車などの輸出産業が貿易で得たドルを円に交換するため、常に円買い需要がドル買い需要を上回っていると言われていました。しかし近年ではむしろ電力会社などのドル買い需要のほうが強いと言われます。たしかに、貿易収支や経常収支も為替相場を決める要因の一つです。ただしそれだけを過大視するのは危険です。というのも、米国の経常赤字は1990年から2000年代前半までほぼ一貫して拡大し続けましたが、米ドルの実効相場は逆に上昇し続けたという先例があるからです。資本収支も含めて総合的に判断することが重要です。

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