為替市場の心理

   為替相場を形成する要因として、市場心理は無視できません。それどころか非常に重要なファクターです。しかし、ファンダメンタルズともテクニカル要因とも違って、数値やビジュアルで把握しずらいという側面があります。そのため記者やエコノミストの市況解説は目に見える事実が中心になり、市場心理についてはあまり言及されません。

   相場に対峙していると、誰でも感じることがあります。それは、材料やニュースに対する市場の反応の仕方が、その時々でまちまちだということです。実際、市場は冷静でも客観的でもありません。強材料と弱材料が同時に出た場合でも、一方により強く反応したり、一方をまったく無視するようなことさえあります。これは、市場心理が中立ではなく、どちらかに傾いているためです。こういう状態をよくバイアスがかかっていると言いますが、市場はいつもそんな状態なのです。

市場心理の指標

   では、とらえどころのない市場心理を、どうやって取引判断に生かせばよいのでしょうか。為替市場には市場心理を読むうえで参考となる指標がありますから、まずこれらを知ることが必要です。以下簡単にご紹介しますが、詳しくはリンク先の各記事をご覧ください。

  • VIX指数(恐怖指数)
    VIX指数は米国の代表的な株価指数であるS&P500の予想変動率を示す指標ですが、別名で恐怖指数とも呼ばれています。相場の下落局面で上昇することが多く、投資家の不安心理を表す指標と見られているからです。
  • TEDスプレッド
    テッドスプレッドは米国債利回りとドル金利の差のことで、市場の不安心理を示すバロメーターとして認知されています。金融市場で信用収縮が起きると上昇します。
  • リスクリバーサル
    オプション取引における用語ですが、コール(買う権利)とプット(売る権利)の価格差のことを言います。市場参加者の相場観や心理状態を示す指標と考えられています。
  • ブルベア指数
    市場参加者にアンケートをとり、強気派(ブル)と弱気派(ベア)の割合を調べたものです。経験則的に、どちらかに極端に傾いたときが天井・大底であることが多いのです。ただ、信頼できる指数を発表している会社なり団体があれば利用できますが、為替相場に関してはあまり聞きません。またアンケートをとって集計する手間がかかりますから、即時性に欠ける難点があります。

市場心理を読むコツ

   以上のように、市場心理を数値で読むことができる指標はいくつかあるのですが、市場心理そのものではないですし、短期売買にはあまり役に立ちません。機敏に動くためには、市場心理を自分で感じとれるようになることが肝要です。ある程度相場をやっていればできるようになります。何人かで集まって会話をしているとき、誰でもその場の空気が読めるのと同じです(読めない人もいますが)。自分で建玉を持たず、相場の動きや解説記事の言い方を観察していると、何となく相場の雰囲気とかムードが伝わってくるものです。『いま強材料が出たら反応しやすいな』とか『市場が狼狽している今は買い所だ』とか。

市場心理   ただし、自分で建玉を持っていないというところがポイント。自分で建玉を保有すると、市場心理の中に巻き込まれてしまうからです。それでも気持ちに十分な余裕があれば、市場と一定の距離を置くことは可能です。心理的な余裕は資金の余裕から生まれます。資金に余裕があれば、総悲観の中で建玉を投げる側ではなく、安値を拾う側に回れます(参考語:踏み・投げ)。我に返ったときに、『なんであんな安値で売り払ってしまったんだろう』と悔やむのではなく、傍観者の目で冷静にチャンスを判断することができます。

   もちろん、市場心理という曖昧模糊としたものが相手ですから、読みまちがうことはあります。数値やビジュアルで把握できないものには頼らないというのも、一つの割り切りでしょう。それでも、市場心理を一切考えないで取引を行うのは、相場の上達を阻害するように思えます。

   市場心理について、以下少し補足しておきます。

美人投票の理論

ケインズ歴史上、最も著名な経済学者の一人であるケインズは、株式投資でも大成功を収めています。彼が相場の極意として語ったのが『美人投票の理論』です。代表著作である『雇用・利子および貨幣の一般理論』の中で、次のように述べています。

   『玄人の行う投資は、次のような美人投票に例えることができる。100枚の写真の中から最も美しい6人を選ぶ投票を行い、その結果に一番近い投票を行った者に賞金を出す、というコンテストだ。このコンテストでは、投票者自身の好みではなく、他の投票者が好みそうな女性に投票しなければならない。しかも、投票者全てが同じ観点で考えることになる』

   ケインズがこの例え話しで言いたかったことは、『相場というものは、みんながどう思っているかをみんなで当てるゲーム』だということでしょう。FXでも、市場参加者が相場をどう見ているかを考えることは重要なことです。もちろん、それが分かれば苦労はないのですが、『相場の上げ始めで仕入れた連中は、そろそろ利食いたくてうずうずしているはずだ』とか、『この経済指標が予想を上回ったら市場はこんなふうに反応するだろう』などとか考えることは、売買方針のヒントを与えてくれます。

市場のテーマ

市場心理為替市場では、いつも市場のテーマみたいなものがあります。それは、市場参加者の関心を最も引き付けている材料であり、一種のファッションです。それが何かを常に頭に入れておくことは重要なことです。テーマに関するニュースには、より敏感に相場が反応するからです。ある時は貿易赤字であり、ある時は地政学的リスクであり、ある時はサブプライム問題であったり、テーマは移り変わります。着るものには無頓着な方も、為替相場のファッションにはアンテナを張っておく必要があります。

強気相場は悲観の中に生まれる

   相場の格言に『強気相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく。』というものがあります。市場心理をよく表している言葉ですね。この4つのステップのうち、最初と最後には手を出さないほうが無難です。大底や天井を捕らえることは非常に難しいからです。無理をしないで2番目と3番目で儲けましょう。もちろん、今は何番目のステップかなんて分かりません。ですから、取引を開始するときは底打ちを確認してから押し目を買う(または天井打ちを確認してから戻りを売る)、そういう方針がお勧めだということです。押し目らしい押し目もなくどんどん上昇する展開もありますが、トレンドに乗れなかったからと言って損をするわけではありません。欲をかきすぎないことが肝要です。

ユーフォリア

   ファンダメンタルズに好材料が続出して見通しが極めて明るくなり、市場参加者のほとんどが強気に傾くことがあります。買い建玉を持っていれば安心していられ、不安の入り込む余地がありません。市場全体がなにか微熱に浮かされたような状態となり、高揚感が覆います。こういうのをユーフォリアと言います。イタリア語で『幸福感』という意味です。上述した相場格言で、4番目のステップに当たります。市場がユーフォリア状態になっていると感じたら、相場は休むことです。何かのきっかけで相場が崩れるかもしれず、そうなったら下げがきついからです。逆に、売り建てるのも危険です。一段と上昇してバブルへと続いていくかもしれませんから。

オーバーシュート

   相場が行き過ぎることをオーバーシュートと言います。ただ、どこまでがオーバーシュートではなく、どこからがオーバーシュートなのか、明確に線引きすることはできません。もっぱら感覚的なものなのです。しかし、オーバーシュートしていると感じらるときは、市場心理が冷静ではない状態の場合です。多くの人(特に素人筋)が慌ててしまって、材料に過剰反応したり、資金的に苦しくなって損切りしているわけです。オーバーシュートによって相場は割高・割安なレートを示現しますので、仕掛けるチャンスです。しかし、オーバーシュートしている相場はボラティリティーも上がっており、難しい状態になっているはずです。さらに行き過ぎるかもしれません。資金に余裕を持って動きましょう。

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